特集 価値創造の実践
次世代素材 SiC を用いたパワー半導体による電動化と脱炭素社会への貢献
デンソーは、社是に込められた想いをもとに理念を実現させるため、事業活動を通じて社会課題を解決するサステナビリティ経営に取り組んでいます。ここでは「SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体」という新たに開発した製品を例に、社会課題解決や実現に至るまでの歴史で培ってきた強みや今後目指す姿といったデンソーの価値創造ストーリーをご紹介します。
社会課題:モビリティの進化と電動車の普及に伴う電力消費量の上昇
環境負荷低減に大きく貢献する電動車は、2020年から2035年に販売台数が15倍になると予測されており、それに伴い電力消費量の増加が予想されます。電力の利用効率を 上げて電力消費量の上昇を抑えることが、電動車の普及やモビリティのスマート化推進の今後の鍵を握るのです。
SiCパワー半導体を通じた電力効率の向上により、 電動車の普及やCO2削減へ貢献
「電力消費量の上昇」という社会課題を解決しながら、電動車を普及させCO2削減に貢献するため、デンソーは独自の特許技術構造や製造技術を取り入れたSiCパワー半導体を開発しました。
SiCパワー半導体の特徴と貢献する分野
パワー半導体とは、ECUから指示を受けてインバータやモータを動かす半導体です。電動車のエネルギーマネジメントの要となるパワー半導体を過酷な車載環境に耐えられるように
するためには、「SiC」という素材を使ったパワー半導体を開発する必要がありました。SiCは、これまで材料とされていたSi(シリコン)よりも高温、高周波、高電圧環境での性能が優れていることから、インバータの電力損失低減や小型化に大きく貢献し、モビリティの電動化を加速させる材料として注目されています。しかし、SiCは市販の材料では車載に求められる品質に達しなかったため、材料から自社で開発する必要がありました。そこでデンソーは高品質な材料開発を進めることで車載環境に耐えうるSiCを生み出しました。
デンソーのSiCパワー半導体がインバータに搭載されると、従来と比較して、体積は約60%削減、電力損失は約70%低減でき、製品の小型化と車両燃費の向上を実現します。これ
により「電力消費量の上昇」という社会課題の解決に貢献することができます。
これまでの半導体開発の歴史の中で 積み上げてきた資本と強み
デンソーが車載環境に耐えられる半導体を開発できた理由は、半導体開発の長い歴史の中で培われた資本と強みにあります。デンソーにおける車載半導体の取り組みの歴史は、1960
年代に内製化を目指して車載半導体の研究所を立ち上げたことから始まります。そして素材開発から製造、システムの設計までを一貫してカバーする垂直統合での開発力により、量
産化・実用化に向けた取り組みを進めました。さらに、開発した製品がどのような環境下でも正常に動作するように、極端な環境下で製品の耐久度を測定し改善を繰り返すことで、
デンソーの「タフ」な半導体製品が完成しました。
そして、デンソーは約25年の歳月をかけてSiCパワー半導体の実用化に成功しました。このパワー半導体は、2020年12月に販売を開始したTOYOTA新型「MIRAI」にも採用され
ています。1960年代に半導体チームが発足して以来、車載半導体製品を世に送り出し続けてきた事業部と、30年近くSiCという品質の制御が難しい材料に向き合いながらも実用化を諦めなかった社員の想いの強さが結実したのです。
資本 | 製造資本:車載半導体製品を社会に提供し続けてきた生産体制と品質保証体制 知的資本:1960年代から世界に先駆けて培ってきた車載用半導体開発の知見 社会・関係資本:SiCの開発を担う株式会社ミライズテクノロジーズとの連携 |
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強み | ヒトづくり:過去から蓄積されてきた車載環境固有の課題に対する先人たちの知見の伝承と、若手社員の発想力
のシナジー 研究開発:モビリティ開発で培ってきた技術の応用、総合力を活かした垂直統合の開発力 モノづくり:ハードな車載水準をクリアする半導体の内製力 |
社会に提供する価値:脱炭素社会の実現に向けて
新たに自社開発したSiCパワー半導体をさらに普及させることで、電動車の普及やCO₂の削減が進み、デンソーの環境戦略で掲げる目標の一つである「クルマの電動化に貢献し、CO2を可能な限り削減する」に貢献することができます。そしてより多くの場面で電気が必要となっていく将来に向けて、低炭素社会の実現、さらには2035年のカーボンニュートラルの実現を目指していきます。
社員メッセージ
パワー半導体のさらなる進化がカーボンニュートラルにつながるSiCパワー半導体の実用化は実現したものの、SiCはようやく電動化の入口に立ったところです。これから本格的に加速していく電動化に対する期待に応えきれるか、デンソーの半導体の真価が問われると考えています。また、SiCパワー半導体には、様々な可能性があります。この先、パワー半導体が無線給電に適用され、将来の走行中給電に応用されると、給電システムの大幅な小型化と効率化が可能になります。
また、「空飛ぶクルマ」であるe-VTOL(電動垂直離着陸機)や、建設機械や商用トラックといった従来のモビリティに比べ、よりタフさが求められる新しいモビリティたちが電動化していくとなれば、半導体もよりタフでなければなりません。安定的に稼働するパワー半導体は、そうした場面で活躍するはず。これからも、SiC実用化で培った経験を活かし、新たなニーズにも応えられるよう、一丸となって取り組んでいきます。