DENSO Game-Changing Technologies
その瞬間を「最適化」せよ。
DENSO Game-Changing Technologies
その瞬間を「最適化」せよ。
あらゆるものがつながる未来では、さまざまな可能性も広がっていく。
その膨大な可能性の中から“ベスト”と思われる答えを“瞬時”に導き出す。
私たちはビッグデータ活用の未来を想像しています。
Fellowship
「挑戦すること」それはデンソーの文化。これまでも常に困難に挑み、新しい価値を生み出してきました。
それはこれからも変わることがありません。社内外問わず優れたパートナーとの共創を通じて、今後も新しい価値をカタチにしていきます。
世界で初めて「量子アニーリング」を提唱したひとりである、門脇氏。100年に一度の変革のときを迎えた自動車業界には、量子コンピュータの応用で新たなチャレンジができる環境がそろっている。そしてデンソーには、そんな挑戦を支える土壌がある。彼は、日本だけでなく世界を相手に一歩を踏み出した。
Tadashi Kadowaki
門脇 正史
Collaboration
圧倒的な計算速度で
常識をくつがえす。
従来のコンピュータが膨大な時間をかけて解く問題を、瞬時に計算できるようになると期待されている量子コンピュータ。1980年代にRichard Feynmanによって提案されたものの、実用化には数十年以上かかるといわれていました。しかし2011年、カナダのD-Wave Systemsが従来とは異なる方式を採用し、世界初となる商用量子コンピュータを発表。大手の半導体企業やIT企業、多くのベンチャー企業が開発を加速し、次世代コンピュータ基盤技術でリードすべく熾烈な競争が始まっています。
「0と1」が重なり合う量子の世界
量子コンピュータが従来のコンピュータと大きく違うのは、情報の最小単位に量子論を取り入れていること。従来のコンピュータは、情報を「0」と「1」のうちいずれかの状態で表現します。この「0」と「1」は、情報の最小単位「ビット」と呼ばれています。一方、量子コンピュータは、「0と1」を重ね合わせた状態をとる「量子ビット」という単位で処理をしています。従来のコンピュータであれば、情報は「0」か「1」かのどちらかで処理されますが、量子コンピュータの世界では、「0でもあり1でもある」という状態が成立します。
量子コンピュータの計算速度が驚異的な速さを誇るのは、この量子ビットによるもの。たとえば1ビットであれば「0」と「1」の2通りで処理が済むものの、2ビットになると「00」「01」「10」「11」の4通りを計算処理する必要があります。そのため、ビット数が増えると、爆発的に計算回数が増えてしまいます。しかし、量子ビットの場合は「0でもあり1でもある」状態をとることができるため、すべての組み合せの重ね合わせとして表現でき、重ね合わせた状態を並列に処理することができます。
2種類の量子コンピュータ
量子コンピュータには、大きく分けて2つのタイプが存在します。1つは、「ゲート方式」と呼ばれるもの。もう1つは「アニーリング方式」と呼ばれるものです。「ゲート方式」は、1985年に物理学者David Deutsch氏によって提案された、従来のコンピュータの構成要素である論理ゲートを量子ゲートに拡張したものです。「アニーリング方式」は、最適化問題の解くメタヒューリスティック(様々な問題に適用できる汎用アルゴリズム)の手法として提案され、カナダのD-Wave Systemsによって製造された量子コンピュータに実装されています。
日本発のテクノロジーが
世界を変える
量子コンピュータの中で現在商用化されているのは、D-Wave Systemsが開発した量子アニーリング方式の量子コンピュータです。
量子アニーリングは組み合せ最適化問題(※)を解くアルゴリズムとして、1998年に世界で初めて東京工業大学教授の西森秀稔氏と、当時大学院生だった門脇正史氏(現在デンソー社員)が共同で提案しました。
「アニーリング(焼きなまし)」とは、熱した金属をゆっくりと時間をかけて冷やす熱処理のことを示します。焼きなましによって、金属の組織が均質化し安定するという自然現象からヒントを得たのが、「シミュレーテッドアニーリング」と呼ばれるアルゴリズムです。当時、最先端の統計力学の基礎研究で明らかになった最適化問題における熱ゆらぎと量子ゆらぎの類似性を利用して、量子ゆらぎによるアニーリング(量子アニーリング)が発明されました。
これからの未来において、ビッグデータを活用しながら、複雑化する問題と対峙するには欠かすことができない量子コンピュータ。すでに今、交通渋滞の解消を目指し、量子コンピュータを使った実証実験なども行われています。私たちは、世界を変えるきっかけとなるテクノロジーとともに新たな未来を創造していきます。
次世代モビリティ社会における活用例
私たちは、交通に関わる多くのサービスをリアルタイムに最適化することで、人々の生活のクオリティを高め、安心安全な社会の実現に挑戦していきます。
すでに世界有数の渋滞都市であるバンコクでの実証実験などを実施。移動、物流、救急などの観点から量子コンピュータの実用化に取り組んでいます。
交通状況や顧客ニーズに柔軟に対応し、再配達、配送遅れ解消や積載率の向上を目指しています。
シェアリングモビリティと基幹交通をシームレスにつなぎ、人々の多様なライフスタイルに寄り添う移動システムを目指しています。
モノづくり革命における活用例
工場に時々刻々と発生する変化をリアルタイムに最適化することで、お客様の多様な商品ニーズに対応し、安定供給が可能な『生きた工場』の実現に挑戦していきます。
デンソーは世界に130もの工場を有しており、その実際のデータを用いて、工場内オペレーションや設備計画、生産計画などの観点から実用化に取り組んでいます。
複数の無人配送車(AGV:Automated Guided Vehicle)へのオーダーと搬送経路の状況に柔軟に対応し、搬送効率の向上を目指しています。
設備の稼働状況や製造スタッフの業務計画などをリアルタイムに解析し、経営資源を活用を最大化することで、お客様への多品種対応や短納期対応の実現を目指しています。
スマート社会における活用例
交通や工場の問題だけではなく、環境、エネルギー、経営、健康、教育といった社会課題の解決に挑戦していきます。
量子コンピュータという、大きな可能性をもった技術に賛同してくれる多くのパートナーと共にその可能性を探索していきます。
量子アニーリングという発展途上の技術を、アプリケーション、理論、実装などを通じて、様々なパートナーと体験し、ノウハウを蓄積し、実社会で使える技術に育てることに挑戦しています。
量子コンピュータの未来を議論できる場を通して、その可能性や課題を発信し、皆さんと共に挑戦していきます。
バンコクでのタクシー配車問題の実証実験では、D-Wave Systemsの量子コンピュータと既存アルゴリズムの性能評価を行いました。
D-Wave Systemsの量子コンピュータの解の精度向上や計算加速を目指し、量子力学を活用した制御アルゴリズム改善に取り組みました。
D-Wave Systemsの量子コンピュータの量子ビットに、解きたい問題を効率的に実装することが実応用では重要になります。大規模な問題を高速に量子ビットにマッピングする技術を開発しました。
量子の力は従来コンピュータで活用できるのか?量子の振る舞いを従来コンピュータで模擬できるアルゴリズムを開発し、機械学習のトレーニングに適用しました。
エレクトロニクス研究部
情報エレクトロニクス研究室 担当次長(博士)
100年に一度の変革のときをチャンスに。
世界を相手に新たな挑戦ができる、その土壌がここにある。
01
これまでの経歴1998年、東京工業大学大学院在学中に「横磁場イジング模型の量子アニーリング」を、西森秀稔教授と共同で発表。組合せ最適化問題を解く手法として、「量子アニーリング」を世界で初めて提案しました。卒業後は、ロームにてFPGA(Field Programmable Gate Array)の開発に従事。その後、バイオインフォマティクスに転向し、ベンチャー企業やポスドクなどを経て、エーザイに勤務しました。ゲノム解析や抗がん剤のバイオマーカー解析に携わり、直近はデータサイエンス部にて人工知能技術の創薬応用の研究に従事しました。日本だけでなく世界を相手にする自動車業界は、100年に一度といわれる大きな変革のタイミングが訪れており、量子コンピュータの応用で新たなチャレンジができる環境を求め、2018年5月にデンソーに入社しました。
初めてコンピュータに触れた1983年頃、ゲームを自分で作ってみたいと思いプログラミングを始めました。その後は、パソコンを拡張することに興味を覚え電子工作に夢中に。さらに、ハードウェアをプログラミングできるFPGAに興味が広がりました。大学では、コンピュータの動作の基本である物理を学びました。半導体とはまったく異なる生命情報や脳科学にも興味があり、仕事にしていたこともあります。今でも時間があるときは、プログラムを書いたり、自宅サーバーをメンテナンスしたり、回路設計や基盤設計をするなど、趣味と仕事の両面から様々なレベルでコンピュータの課題に取り組んでいます。
02
現在取り組んでいることコンピュータの発展を支えてきた「ムーアの法則(※)」が限界に近づいており、従来のコンピュータの限界を超える量子コンピュータ実現のために、基礎から応用まで幅広く取り組んでいこうと考えています。現在は「ノイズに弱い量子ビットの性質を理解するための方法論」に取り組んでいます。利用可能な量子コンピュータのひとつであるカナダのD-Wave Systemsの量子アニーリング式コンピュータでの実験と、理論やコンピュータシミュレーションを用いた研究を、東北大学や早稲田大学の共同研究者とも議論しながら進めています。応用面では、組合せ最適化問題だけでなく、量子シミュレーションや量子機械学習といった最先端の研究を社内で活用するため研究動向の調査を進めています。
03
研究における目標現在の量子コンピュータは、今後やってくる実用的な量子コンピュータを理解するための研究装置の側面が強いと考えています。実用的な量子コンピュータがどのような物になり、どのように役立っていくのかは、今世界中で行われている研究によって方向性が決まってくるはずです。社内外にある実社会での課題への適用を検証しながら、デンソーの製品やサービスの優位性を作り出す核となる技術を開発していくことを目標にしています。量子コンピュータの実用化までには、基礎から応用まで様々なチャレンジがあり、どこにどれだけ注力していくのがよいか、社外のプレーヤーとの連携も組み入れた戦略が重要です。
04
研究を進めるうえで大切にしていること約25年、大学や企業で多岐にわたる分野の研究や開発に携わってきました。大小様々な失敗や成功を見て、事前に成功するかどうかを予測することは不可能であることを学びました。そもそも予測できないことがあるから研究をしているのであって、実は当たり前のことに気づいただけかもしれません。その上で研究を続けていくには、自分の内側から研究の楽しみを見つけることや、ダイバーシティを確保することで大事で、それらがセレンディピティの可能性を高めると考えています。状況により優先すべき研究領域があるかと思いますが、まずは一人ひとりが少しでも広く科学の荒野を耕すことで知識を深め、その中から産業上も重要な知識を発掘できると期待しています。