DRIVEN BASE

ステークホルダーとの対話 2010 in China

●日 時 2010年6月17日

●場 所 北京市内ホテル

●テーマ
第1部 国で果たすべき企業の社会的責任とは
第2部 中国社会に貢献する社会貢献とは(ご意見・ご提言)

●出席者
Mrs. Yang Liu(中国政府の商務部研究院「多国籍企業研究センター」プロジェクトマネージャー)
(Yang柳)
Mr. Zhang Junfeng(人力資源社会保障部「国際労働保障研究所」副所長)
(Chang峻峰)
Mr. Chang Cheng(NGO法人「自然之友」所属。リサーチ・調査部門のプロジェクトコーディネーター)
(常成)
Mr. Guo Yi(北京工商大学 経済学院経済学部 副教授)
(郭毅)

<電装(中国)投資有限公司(DICHI)出席者>
総経理、常務副総経理、副総経理、総経理助理、その他関係部署のマネージャー・担当者など

<ファシリテータ>
小林一紀氏(エコネットワークス代表)、
郭沛源氏(Syntao代表)

主な意見やコメントなど

第一部 : 中国で果たすべき企業の社会的責任とは(出席者様のご意見)

CSR推進には上層部の認識と情報開示が肝心【Yang柳氏】

CSRの展開にはコストを要しますが、これは短期的な利益追求とは相いれません。また、CSRに関する従業員教育は途上段階で、自主的に推進するレベルには達しておらず、現地企業のトップには任期があるため、短期間でCSRを進展させるのは容易ではありません。
デンソーの現地法人は、コンプライアンスリーダーを任命し、各社の状況を半年ごとにベンチマークしてグループ間で情報共有しているそうですが、CSRレポートを読んで、コンプライアンスを取締役会と同じ組織で管理していることが重要と感じました。上層部の認識が第一で、さらに透明性のある情報開示が必要です。日本企業には中国におけるCSRをリードしてくれることを期待します。

中国固有の事情を理解・重視した取り組みを【Chang峻峰氏】

ISO26000には、中国の要望で『差異を尊重する』旨が盛り込まれました。デンソーが中国でCSRを進める上で、中国の特長を重視すべきです。近年、労働者の権利意識が高まっていますが、これは労働者の構成が変化したことによるものです。
どの業界でも、農村から沿海地域に出稼ぎに来る「農民工」の比率が大きいのですが、1980年代~90年代の彼らは稼ぐことが目的で、労働条件に対する要求は高くありませんでした。稼いだら地元に戻って畑を耕しました。しかし、現在の2代目世代は、自身の生活レベル向上を目標とし、権利意識も強く、権利維持のため主体的に行動します。
これが農民工の問題が多発している理由です。外国企業では本社派遣の社員と農民工の給与待遇には10倍以上の差があるといわれ、その不満から労働者との緊張関係が高まっているのです。今回のデンソーによるステークホルダーとの対話は非常に重要で、今後も多くの対話が開催されることを期待します。

NPOと積極的に対話・連携してCSRの拡充を【常 成氏】

私たちは環境に関する多彩な活動を行っています。例えば、暮らしの中で環境保全に役立つエコ活動の啓発冊子「グリーンライフの指針」を企業と協力して作成し、社員教育にも活用されています。また、他のNPOと協力して多方面から情報を集め、「空気汚染地図」や「水質汚染地図」などを作成して政府の管理・監督システムを代行したり、企業のサプライチェーンのモニタリング調査も行っています。これから環境保全を進展させていくには、考え方を変えて、NPOと企業の関係を対立から対話へ切り替えていくことが重要です。企業が環境取り組みを進めるには、地方の法律を念頭に入れておく必要があるので、経験豊富なNPOと積極的に連携してほしいです。

中国ならではのCSR推進モデルとレポートの役割【郭毅氏】

中国には4つのCSRモデルがあり、<1>法規制による政府主導型 <2>海外本社の意向に従うサプライチェーン型 <3>市民やNGOが後押しするボトムアップ型 <4>サプライチェーン下流から全体に広がる遡り型で、3番目のモデルがCSR推進の力になりつつあります。企業にも3タイプあり、基幹産業を担う中央直轄企業は影響力が大きく、CSRをリードする役割を担っています。一方、民営企業の99%は中小企業で、こちらは環境問題や労働問題の論点となり、人的・経済的な余裕がなくCSRへの意識は低いです。そして、外資系企業は自国のノウハウを基盤に中国固有の課題にも取り組み、ベンチマークの対象でもあります。政府は国有企業には強い姿勢で臨み、CSRの実践やレポート作成を求め、セミナーなども多数開催しています。

現在、約580冊のCSRレポートが発行されていますが、自主的ではなく外的な圧力で発行している感があり、報告も企業側の視点にとどまり、内容も物足りません。一方で、レポート発行が実践への第一歩と位置付け、政府が異なる業種・地域のCSR活動を表彰する計画があり、CSRレポート発行が必須条件です。これがCSR推進の契機になると思われます。

第二部 : 中国社会に貢献する社会貢献とは(ご意見・ご提言)

【本業との関係性】

CSR活動は本業と関連しているべきだと思います。自動車関連であれば、シートベルトを締めるとか、飲酒運転の回避など、デンソーの特色を活かして、消費者を啓発してほしい。事業との関連性がない寄付活動だけでは、持続性も期待できません。今回のダイアログも開催だけでは意味がなく、どんな効果があり、事業活動にどのように反映していくかを検討することが重要です。

四川大地震後、建設関連の有力企業が連携して学校を建て替えたり、コンピュータ・メーカーがインターネットを活用した遠隔教育や農民工を対象にIT教育を行うなど、本業と直結した社会貢献を行っています。自社の強みと地域の課題を結びつけて課題解決に貢献すべきではないでしょうか。中国でのCSR活動は一般的な活動にとどまっているケースが多く、地域最適化が足りません。CSRレポートについても、ステークホルダーの要望を踏まえた上で、持続的に報告していくべきだと考えます。

【障がい者福祉】

中国には障がい者が約7,000万人いて、生活資金面では保証されていますが、自立支援制度が未確立です。デンソーには車いすの寄贈だけでなく、障がい者への教育や自立支援もサポートしてほしい。昨年から障がい者が免許取得できるようになりましたが、継続的な支援がないため、このままでは障がい者が危険なドライバーになってしまいます。自動車の構造を工夫するなど、デンソーらしいサポートができないものでしょうか。

【環境保全活動】

環境保全活動はプロの知識が必要な活動です。例えば、植林する場合でも、地域に適応した樹種を選ぶ必要があり、地域社会に詳しくかつ人脈のあるNPOと協力しながらCSRを実践してほしいです。

【社会貢献】

多くの企業が製品の宣伝も兼ねて社会貢献活動をする中で、日本の企業は控えめな印象です。また、公益的な事業を始めようとする起業家に資金を提供するファンドがあり、10以上のプロジェクトが収益的にも成功していると聞きます。その一方で、企業から「社会貢献活動では、何をすればよいのか?」という問い合わせを受けることがありますが、それを尋ねる前に「社員は何をしたいのか?」という視点を持ち、彼らの意欲をいかに引き出していくかが重要だと思います。

事務局より

デンソーは、1994年に山東省でカーエアコンなどの生産を開始以来、自動車産業の成長とともに拠点を拡充し、2010年3月末現在、24社の現地法人で約1万名が従事しています。急速な経済成長の中で国の戦略や人々の意識が変わり始めた中国で、企業はどのように社会的責任を果たすべきなのか。著名な有識者やNPO関係者をお招きして対話を交わしました。

今回のダイアログを通じて、中国の歴史的な発展過程と、現代における企業の在り方の両側面から気づかされる点が多々ありました。私どもは、企業の社会的責任は、その地域や国民の立場になって物事を考え、行動すべきだと考えています。

デンソーは、エンドユーザーと接する機会が少なく、一般消費者への情報発信が不得手ながら、中国での交通事故・渋滞緩和などへの意識を高めるため、社会に広く交通安全を訴求していく必要性を感じています。今回のご提言やご指摘を受けて、手探りの状態から展望が開けたように思います。今後、社員が「こうしたことに取り組みたかった」と思えるような事業活動・社会貢献活動を実践したいと思います。

経営企画部CSR推進室