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ステークホルダーとの対話 2009

●日 時 2009年12月22日

●場 所 ㈱デンソー東京支社(東京都千代田区)

●テーマ
テーマ①【環境保全】地球温暖化の防止、生物多様性の保全」
テーマ②【人権・労働慣行】多様性の尊重、労働における基本的人権の尊重」
テーマ③【サプライチェーン全体へのCSR展開】CSR調達」
その他

●参加者
藤井敏彦 氏((独)経済産業研究所 コンサルティングフェロー)
関 正雄 氏((株)損害保険ジャパン 理事・CSR統括部長)
岸本幸子 氏(NPO法人パブリックリソース センター事務局長・理事)
川北秀人 氏(IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所]代表)

主なご意見とコメント

テーマ<1> 地球温暖化や生物多様性に、どのように向き合うべきか

<●有識者、◆デンソー>



●米国の経済学者P.ドラッカーは、出生率が下がれば将来の人口減少は確定しているのだから、これは『既に起こった未来』と捉えるべきだという指摘をしている。CSRを通じて、既に起こった未来を見つけられるかが重要。

◆今後のCSR課題抽出の切り口として活用していきたい。

● 日本は、省エネ技術では世界のトップランナーという自負がある。しかし、生物多様性については先進国の中で日本が最も遅れている。米国では事業活動で生じた生態系の劣化を補う活動によって埋め合わせする「バイオダイバーシティ・オフセット」のルールが1950年代に立法化され、欧州でも同じようなルールがありますが、日本にはこのようなルールはない。2010年10月のCOP10(生物多様性条約締約国会議:名古屋)に向けて、それをルール化しようとしている。しかし、生物資源が豊富な途上国は生物遺伝子の所有権を主張し、その解析技術・知的所有権・活用技術も含めて先進国との利益配分が課題。つまり、生物多様性は中東の石油資源と同じ状況にあり、今後、利益配分のルール化進むと考えられる。こうしたことを見越して企業はどう対応・反応するのかが重要。

◆デンソーの事業活動の中での影響を見極めながら対応を検討する。

●世界市場のどこで何を売っていくのか。どんな幸せを生み出すのか。自動車部品としての戦略を出して欲しい。新興国の市場が大きな市場。持続可能な成長戦略にあわせて情報開示が必要。

◆デンソーはリーマンショック以降、スリム化と次への成長を重点テーマに構造改革に取り組んできた。
09年から、全社横断組織としてDP(デンソープロジェクト)を8つ設け、次なる成長戦略を打ち出すために取り組みを始めている。そういった内容を今後も積極的に情報開示していくようにしたい。

●デンソーはWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)のメンバーなので、ぜひこの組織を通じてデンソーの先進的な環境取り組みを世界に発信して欲しい。WBCSDは世界に発信する良い場。交通事故、安全、などのモビリティ社会にどう貢献していくのかということを示して欲しい。

●COP10では、NGOは存在感を発揮しているが、企業の声が政策ソリューションプロバイダーとしての役割を発揮できていない。解決策を提供できるのでは、企業ではないか。企業がどうエンゲージしていけるかが大きなポイントでは。

◆WBCSD、COP10等国際会議の場を通じて世界にメッセージを発信していくよう努力していきたい。

●損害保険業界が推進している、安全と環境を両立させる「エコ安全ドライブキャンペーン」を参考にしてみては。「エコドライブを行うと燃費は10%向上して交通事故は半減する」という調査結果に基づいて呼びかけているもの。エコと安全が密接に関係していることを知らない人が多いので国民運動にまで普及拡大したいと考えている。

◆交通安全もデンソーにとって非常な重要なテーマであるため、損害保険業界へのヒアリングを含めて、デンソーへの導入を検討したい。

●生物多様性のほかに喫緊の環境課題として「水資源」がある。デンソーでは、手をかざすと水が流れ、手を離すと止まる自動水栓の分野で重要なユニットを水栓機器メーカーに供給しているが、デンソーの特徴はこの発電をマイクロ発電機(オルタネータ)が水の力を利用し発電、電気をコンデンサーに貯めセンサーの電力として活用すること。これは節水を図る上で非常に有効で、こうした技術情報を発信し、水危機に直面している地域に普及していけば大きな貢献になるはず。

●また、マイクロ発電を応用した風力発電装置など、低コストによる“現場発電”はCSRとビジネスを連動させて貧困層の生活向上を支援するBOP※の分野で大きな力を発揮できる。こうしたデンソーの独創技術の発信・普及にもっと力を注いで欲しい。

※Base of the Pyramid または Bottom of the Pyramid

◆環境社会貢献活動として新規プログラムを検討していきたい(オルタネータを活用した学生向けコンテストの開催など)。新興国・途上国での本格的な事業化については低コスト化や拡販などが課題であり、今後可能性を探りながら検討していきたい。

テーマ<2> 人権や多様性の尊重をどう理解し、施策に反映していくべきか

<●有識者、◆デンソー>



●ISO26000では、人権について「適正な注意を払うこと」と冒頭でうたっています。これは、人権侵害を未然に防ぐ仕組みをマネジメントに組み入れられているかということ。ビルトインされているかが重要。

◆人権侵害(差別・児童労働・強制労働)がないようグローバルで人事理念を共有し、方針の明確化、浸透を図っている。

◆日本も含め各国で人権に伴うリスクを最小限化するように留意していきたい。

●女性管理職の登用について、社会では登用実績を問われる段階になりつつある。

◆結果がでるように、現在、数値目標を設け、さらなる推進を図っていきたい。

●海外出向者のために、赴任前にどのような教育をしているのか?

◆赴任予定者に対しては「海外人事管理教育」を実施し、人事管理上の知識・スキルや、人事リスクの回避法・対処法の修得を促している。

●国内では、この20年間で日本の少子・高齢化は予想を上回るスピードで進み、今後20年間で労働人口の大幅な減少が見込まれる。すると、働き盛りの世代が親の介護問題を抱えながら仕事に従事することが当たり前になってくる。これを解決しなければ日本の経済成長は維持できなくなり、企業も社員のワークライフバランスに真剣に取り組む必要がでてくる。「働き方の多様性」について制度を含め推進する必要がある。

◆現場の声を取り入れて、育児介護の新制度導入など、多様な働き方に対応できるよう、継続推進していきたい。

テーマ<3> リスクマネジメントの視点から「CSR調達」を考える

<●有識者、◆デンソー>



●CSR調達についてはリスクマネジメントの観点から、海外の仕入先についてCSR方針を調達基準に反映させたり、監査にて点検するのは方向性として行うべき。ただ、国内のように自己診断シートを渡して点検するのは有効な手段の一つではあるものの、問題が発生した場合を想定して対処法を整備しておくことも重要。海外のサプライヤーで問題が発覚したとき社会から問われるのは、問題発生を未然に防ぐための最善の努力を行ってきたか。そして速やかに適切な処置をとったか。そのためにも、仕入先との日頃からのコミュニケーションが重要であり、CSR調達をポジティブに捉え、監査ではなく、情報交換・意思疎通を密にし、前向きに活動にとりくむのがよいのでは。

◆仕入先による一方的な自己診断のみでなく、現地現物による確認や、本質的な改善に向け相互にコミュニケーションを更に積極的に図っていきたい。

●どこまでやっても調達先での問題は起こる可能性がある。社会貢献の関係で人権・環境・表面化する前にNGOとの団体とのお付き合いが必要では。システムでの対応の他に事前にアラームを発してくれる団体との付き合い、戦略的な視点も持って、社会貢献活動を通じたネットワーク作りも大切。

◆左記関係の構築は、簡単に出来るものではないが、環境や人権団体との関りの中で意識して関係構築に努めていきたい。

●飛翔会での活動はぜひ、よい事例として欲しい。サプライチェーンを通じてSRを普及させることをぜひチャレンジして欲しい。

◆仕入先にとって「弱み」と認識した分野について、社内外の専門家を講師とした勉強会を開催し、継続的な啓蒙・改善を図っていきたい。

その他

<●有識者、◆デンソー>



●ステークホルダーエンゲージメントをどうやって進めていくのかについて。関連性・重要性を決定づけるにあたり、どうエンゲージメントをしていくのか。
また、サステナブルコンサプション(持続可能な消費)、消費者をどうエンゲージメントするか。世の中をかえるためには、消費者も企業も持続可能な社会を作っていく必要がある。

◆次年度は社員(CSRリーダー)とのダイアログを定期的に開催し、CSR活動の改善につなげていきたいと考えている。

◆工場設立など、事業運営する上でステークホルダーの意見・要望を把握した上で展開していく必要があり、さらに踏み込んだエンゲージメントも検討していきたい

●将来のボトルネックは何かという視点が非常に重要。ボトルネック、今起こっていることより、将来おこるであろうボトルネック、今のビジネスではなく、未来の時点でみる必要がある。欧米企業では高い戦略をもっている。社会貢献は単なる善意活動ではなく、明確なメッセージを明確なターゲットに投げかけている。将来のボトルネックはどこにくるのか、既に起こっている未来について、どこまで経営戦略に落とし込んでいるかが重要だと考えています。

◆今後のCSR課題の抽出の切り口として活用していきたい。