DRIVEN BASE
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人権尊重

基本的な考え方

世界的なサステナビリティへの関心の高まりを背景に、企業に対して人権に配慮した事業活動が強く期待されています。
ハラスメントや差別がない職場では、品質問題・労働災害発生リスクも低くなり、また人権に配慮した事業活動の推進は、ビジネス機会の拡大や優秀人財の獲得、社員エンゲージメント向上につながります。
デンソーは「人権尊重」を重要なテーマと捉え、サステナビリティ経営の重要課題(マテリアリティ)の一つに設定し、人権尊重の取り組みを推進しています。

なお人権尊重に向けた取り組みは、国際規範「国連ビジネスと人権に関する指導原則」のフレームワークに則って順次進めています 。

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【出典】Caux Round Table Japan

人権方針

デンソーでは、従来、「デンソーグループサステナビリティ方針」や「社員行動指針」の中で、求人・雇用・処遇など 、ビジネス上のあらゆる面において、人種・性別・年齢・国籍・宗教・障がい・傷病・性自認・性的指向などによる差別やセクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントその他あらゆる形態のハラスメントや児童労働、強制労働など、人権を侵害する労働またはそれに準ずる行為の禁止を明文化し、グループで共有するとともに徹底を図ってきました。
また差別・ハラスメントの禁止については、就業規則の中でも明記し、違反した場合には懲戒の対象であることを周知徹底してきました。
昨今、グローバル社会でビジネスにおける人権尊重への取り組みの重要性が高まる中、デンソーは、人権に関する取り組みをより一層推進すべきと考え、「世界人権宣言」「ビジネスと人権に関する指導原則」などの各種国際規範に従って、人権に関する個別方針「デンソーグループ人権方針」を策定しました。なお本方針は、人権を専門とした第三者機関やグループ会社からの期待や意見を踏まえて作成し、全経営役員が参加する経営審議会での審議・承認および取締役会への報告を経て制定しました。

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【補足事項】「デンソーグループ人権方針」がカバーする人権課題の範囲

児童・若年労働、労働時間・休日、賃金(最低賃金・生活賃金)などの基本的労働条件、労働安全衛生、社員の健康、強制労働その他の現代奴隷(人身取引など)、社員との誠実な対話、求人・雇用・処遇などあらゆる場面での差別・ハラスメント、ダイバーシティ&インクルージョン、マイノリティ(女性、移民労働者、障がい者、LGBTQ+など)、地域社会・先住民族(地域環境保全、資源(土壌・水・森林)、騒音・振動抑制、交通安全・渋滞緩和など)、プライバシー、消費者(製品安全、必要十分かつ正確な情報提供)、腐敗行為、適切な警備の使用など

推進体制

人権の問題は多岐にわたるため、「人事最高責任者(CHRO・取締役副社長:山崎康彦)」を統括責任者に、人事部を主管部署として、経営戦略部門、調達部門、法務・コンプライアンス部門など関連する部門で人権推進チームを設置し、活動計画の策定、各部門での取り組みの共有、人権に対する最新の社会動向の共有などを行っています。
また人権推進チームによる人権方針に基づく活動計画やその進捗状況の報告などは、サステナビリティ会議へ定期的に報告しています。なお、取り組みへの助言など活動を円滑に進めるため、関連部門の担当役員で構成するアドバイザリーボードを設置しています。

人権に関する国際情勢や法制化動向あるいは企業への期待は変化が激しく、またその変化に対する企業の対応内容も非常に複雑かつ広範となる傾向です。そのため、正しく情報を理解し適切に判断するために、人権を専門とした第三者機関やグループ会社 、あるいは他社サステナビリティ部門など社外ステークホルダーと情報交換・議論などを行っています。

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具体的な取り組み

社員への啓発・浸透

デンソーでは、「人権尊重」に基づく行動の実践に向け、社員行動指針の中に「人権尊重」を明文化するとともに、グループ各社が社員に対する教育研修などの活動を推進しています。

(株)デンソーでは、人権方針、および差別やハラスメントその他ビジネス上留意すべき人権課題を理解するための人権教育を役員、新任役職者、新入社員、キャリア採用者、期間社員登用者など各階層に対して行っています。また、国内グループ会社を含む全社員を対象とした「コンプライアンステスト」や、(株)デンソーの社員を対象に毎年実施している「サステナビリティサーベイ」に人権に関する設問を組み入れたり、国内グループ会社を含む全調達部門社員に対して「サステナビリティ動向勉強会」を実施したりするなど、人権に対する意識 ・理解を促す啓発活動を行っています。

海外グループにおいても、様々な取り組みを行っています。例えば北米では、ハラスメント禁止を各拠点で社内ポリシー化し、経営層から新入社員に至るまでコンプライアンスおよびリスク管理強化の一環として、相互尊重やセクハラ予防に関する教育を行っており、アジアにおいても各拠点で人権尊重を盛り込んだコンプライアンス研修を導入して全階層に対する教育を実施するなど、取り組みを推進しています。

人権に関わる研修受講者 【注1】[(株)デンソー]

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2022年度よりハラスメント教育を強化し、2023年度・2024年度は全従業員に教育を実施
(2024年度:職場単位の小集団ミーティングによる話し合いを実施)
【注1】階層別研修、調達部門研修、および全社員対象研修の各受講者数合計

ハラスメント防止に向けた取り組み

企業で多様性への取り組みが進む中、ハラスメントの形態も多様化しています。そのような環境変化を踏まえ、「ハラスメント行為を許さない」という強い意思のもと、あらゆるハラスメントの防止に向けて取り組みを強化しています。
デンソーでは、「デンソーグループ人権方針」に基づく行動の実践に向け、社員行動指針の中にハラスメントの禁止を明文化するとともに、グループ各社で社員に対する教育研修などの浸透活動を推進しています。
例えば(株)デンソーでは、職場管理者である課長以上および班長・係長など、職場のリーダー全員に対し、ハラスメント防止研修を実施しています。幅広い分類の具体的なハラスメント行為を想定したケーススタディを用いて、ハラスメントの傾向と対策を学ぶなど、直接的なハラスメント防止策に加え、ハラスメントのない職場づくりや、身近にハラスメントが発生した際の対応方法について研修しています。
2023年度からは、(株)デンソーおよび国内グループ会社において、一般社員についても、従来実施してきたWeb教材による教育に加え、職場での話し合いによる研修を新たに実施するなど、ハラスメントの正しい理解促進のため、体系的にハラスメント防止に取り組んでいます。
2024年度においては、10月以降毎月、各職場にて、動画教材を活用して、ハラスメントに関する小集団MTGを実施し、ハラスメントの正しい理解促進、ハラスメントの防止に取り組んでいます。また、全社員向けに、ハラスメントに関する意識調査や、管理監督職には、ハラスメントリスクの自己点検を実施する等、社員の意識変化を把握し、ハラスメント防止対策の立案に役立てています。
今後も、社員がいきいきと能力を発揮できる風土づくりを目指し、ハラスメント防止の知識・意識や、ハラスメント発生時の対応力のさらなる向上のため、継続的に研修や活動を進めていきます。

日常の事業活動における人権の配慮

地域住民への配慮

デンソーが工場やオフィスが立地する地域で事業を続け、地域と共存共栄していくためには、事業拠点の周辺地域を生活基盤とする地域住民あるいは先住民の権利を尊重・保護することが大前提と考えています。

デンソーでは、事業拠点の地域住民等の人権を尊重し、事業活動に伴い発生する環境負荷の影響を最小限にするため、各国・地域の環境法規制より厳しい「デンソー安全環境管理基準(DAS)」を設定し、廃棄物や化学物質の排出量の継続的なモニタリング・最小化、水使用量の削減、資源の有効利用、あるいは騒音・振動の抑制など、地域の環境保全に万全を期しています。また、社員の通勤あるいは事業拠点への製品・原材料等の搬入・搬送に伴う交通安全トラブル(交通事故、渋滞など)の回避に向けて対策・配慮に努めています。  

なお、地域住民等から相談や苦情などを受け付けるお問い合わせ窓口を設置し、会社Webサイト上で周知しています。

強制労働・児童労働などの防止

デンソーでは、「デンソーグループサステナビリティ方針」や「デンソーグループ人権方針」の中で、強制労働、児童労働その他あらゆる種類の強制的な労働に関与しないことを宣言しています。
例えば(株)デンソー では、採用時において、身分証明書や在留資格認定証明書により年齢確認を行ったり、また過重労働防止にむけた総労働時間・残業時間の管理、適正な賃金の支払いなどを行ったりすることで、強制労働や児童労働などの防止に努めています。また、人権問題を引き起こす原因となりうる鉱物の問題をサプライチェーンにおける重要な問題として認識し、「責任ある資源・原材料調達方針」と 「サプライヤーサステナビリティガイドライン」をもとに、関連するすべてのサプライヤーの協力を得て年1回、調査を実施し、懸念のある鉱物の使用回避にサプライチェーン全体で取り組んでいます。

人権デューデリジェンス

デンソーは、人権方針に基づき、事業活動に伴い発生する人権リスクを特定・評価し、さらにその防止や影響を軽減する措置を図る継続的なプロセスである人権デューデリジェンスに取り組んでいます。

人権デューデリジェンスの第一ステップとして、国際規範に挙げられた人権のうち、ビジネスとの関連が深い人権指標(適正賃金、労働時間、労働安全衛生、強制労働・児童労働、結社の自由・団体交渉権、先住民・マイノリティ・女性・移民労働者の権利などの21の指標)に関し、デンソーグループ(事業拠点がある35の国と地域)における潜在的人権リスクを特定・評価するための人権リスクアセスメントを実施しました。具体的には、人権を専門とした第三者機関の協力のもと、デンソーのグローバルデータ(操業国・地域、事業規模、事業内容、社員構成など)を用いて潜在リスク評価(カントリーリスク・事業特有の課題からの評価)とワークショップを行いました。

その結果、デンソーグループの事業や自動車業界にとって特有の人権リスクとして、「日本国内の外国人労働者の権利」「アジア地域を中心とした海外拠点での労働者の権利」 「サプライチェーン上の強制労働への加担」「職場における差別・ハラスメント」の4つのテーマを特定しました。

そして、この結果を人権推進の統括責任者であるCHROおよびアドバイザリーボードへ報告し、アセスメント内容および今後の対応について了解を得ました。これらの特定したテーマについて、国連指導原則に則った優先順位に従ってアンケート・質問票などを用いて人権リスクに対する状況を確認し、更に詳細な確認が必要な会社については第三者機関の立ち合いの下で調査を行うなど、人権影響評価(インパクトアセスメント)により、適切な措置の実施に向けた取り組みを強化・加速していきます。

    • 人権リスクアセスメント報告書

日本における外国人労働者(外国人技能実習生/特定技能)

外国人技能実習生に対する人権課題は、自動車関連のサプライチェーンにとって関連性が高く重要な人権リスクです。 デンソーは、国内グループ会社ならびに主要なサプライチェーンに対して書面調査を行い、外国人技能実習生/特定技能に関する実態把握を実施。調査の結果、外国人技能実習生・特定技能を活用している会社が存在し、潜在的な人権リスクがあることがわかりました。

そのため、さらに実態を確認し、課題を明確にするため、優先的に調査対象とする会社を選定し、人権を専門とした第三者機関の主導で、外国人労働者(技能実習生/特定技能)に直接インタビューを実施。インタビューの結果、当該第三者機関より、改善ポイントはあるものの人権リスクにつながる大きな課題はないとの報告がありました。また、調査対象会社では、外国人技能実習生が人権に関する負の影響を受けることがないように様々な工夫・努力がなされており、外国人技能実習生を採用する上で参考とすべき好事例として他の国内グループ会社やサプライヤーに共有しました。

今後も、人権を専門とした第三者機関の協力のもと、順次、国内グループ会社およびサプライヤーの外国人雇用状況を把握するとともに、人権影響評価(インパクトアセスメント)により実際の人権影響の有無、影響の程度を確認し、適切な措置を実施していきます。

外国人技能実習生の採用状況 【注】(概数。2024年7月時点)
国内グループ 主要なサプライヤー
130 2,400

【注】デンソー製品・システムを構成する部材等に関連する国内グループ・主要なサプライヤーについて調査。
※㈱デンソーは外国人技能実習生の採用はなし。

 

    • 人権インパクトアセスメント報告書

      人権インパクトアセスメント報告書

    • 第三者機関(CRT)によるインタビューの様子

      第三者機関(CRT)によるインタビューの様子
      【質問事項(例)】
       ・適正な労働時間・強制労働について
       ・適正賃金について
       ・職場安全・健康について
       ・コミュニケーションについて        など

TOPIC:社外有識者との対話

人権の主管部署人事部と主要部門の調達DX改革部・経営戦略部がデンソーの人権尊重に関する取り組み状況を、CSR分野の有識者に説明し、ダイアログを実施しました。グローバル社会の動向や他社取り組み状況を踏まえ、国連指導原則に従った取り組みやリスクアセスメントによる人権課題の抽出、日本国内の外国人労働者へのインパクトアセスメントなどの取り組みを評価いただくとともに、デンソーの現状の取り組みに対して様々な角度から貴重なご意見・アドバイスなどをいただきました。

<ご意見・アドバイス>

  • 外国人技能実習生は、技能向上が図れたかというポジティブな聞き込みもすると良い。

  • サプライヤーに対する外国人労働者/技能実習生調査はサプライヤーへの啓発にもなる。今後はより実態に即したリスク評価実施にむけ設問内容/選択肢を工夫することを推奨。

  • サプライヤーに対する社内啓発活動への支援が必要。啓発ツールの作成・展開あるいは調査結果のフィードバック(課題(弱み)の見える化、ベストプラクティスの共有など)を推奨。

  • 12月10日の国際人権デーに合わせたCEOのメッセージ発信を推奨。  など

デンソーはこれらの意見・アドバイスを踏まえ、今後の活動に活かしていきたいと考えています。

サプライチェーン全体における人権尊重への取り組み推進

人権への取り組みは、サプライチェーン全体で推進することが期待されています。そのため、デンソーでは、サプライヤーとともに人権の侵害あるいは人権侵害へ加担しないように、さまざまな取り組みを進めています。

たとえばサプライヤーに順守をお願いしたい事項をまとめた「サプライヤーサステナビリティガイドライン」に、児童労働、強制労働、移民労働、結社の自由などの人権尊重の実現に向けて必要な項目を盛り込むとともに、すべてのサプライヤーと共有し、その内容に基づいた調達を実施するように求めています。新規に取引を開始するサプライヤーについては、サプライヤーサステナビリティガイドラインで求めている項目についての取組み状況を確認し、取引開始の可否を判断しています。
また主要なサプライヤーには、定期的に「自己診断シート」によるセルフチェックや一定数のサプライヤーを対象にダイアログを実施し、特に必要な項目については直接改善をお願いしています。
2024年度は、グローバルにおいて主要サプライヤー(約2,300社)に対しセルフチェックを実施し、「サステナビリティガイドライン」の趣旨に沿った活動の推進への合意を得ることができました。

責任ある資源・原材料調達への取り組み

ビジネスのグローバル化に伴い、サプライチェーンのグローバル化、多様化が進展しています。しかし、世界には強制労働・児童労働や劣悪な環境での労働など、労働者の権利への配慮がされていない状況が存在しています。
デンソーは、その一つとして、紛争や人権侵害のリスクが高い地域での労働環境の下で採掘されている鉱物(3TG等)の問題をサプライチェーンにおける重要な問題として認識しています。
具体的な取り組みとしては、会社として「責任ある資源・原材料調達方針」を策定するとともに、「サプライヤーサステナビリティガイドライン」を改訂いたしました。これをもとにサプライヤーに対し、RMI*認証済の精錬所からの調達を要請しています。また、年1回、関連するすべてのサプライヤーにご協力いただき、鉱物調査(3TG等)を実施しております。
今後も、サプライヤーの皆様と協力し、懸念のある鉱物の使用回避にサプライチェーン全体で取り組んでまいります。
*RMI : Responsible Minerals Initiative, 責任ある鉱物調達を推進する国際的な業界団体

苦情処理メカニズム

デンソーは、各地域の実情に応じて、地域本社や各拠点において、業務上の法令違反行為等に関し、E-mail、電話、書面、面談などで通報、相談できる内部通報制度を設けています。
(株)デンソーでは、公益通報者保護法に則り、業務上の法令違反や会社ルール違反などを広く通報できる内部通報制度「企業倫理ホットライン」を社内外に設置(社内はデンソー、社外は弁護士)。この制度を通して、ハラスメントや差別その他人権に関わる問題の通報・相談を受け付けるとともに、調査の結果、人権への影響を引き起こした、または助長したと特定された場合には、影響を受ける当事者の救済を行っています。
また、通報者が安心して利用できるように、通報者情報についての守秘義務(匿名性の保証)や、通報・相談を理由とする不利益取り扱いの禁止などを定めています。 なお本制度は、社員・派遣社員・常駐外注者など(株)デンソーや国内グループ会社に勤めるすべての人はもとより、サプライヤーも利用できます。
2024年度は、「企業倫理ホットライン」に差別・ハラスメントなどの人権に関連する通報・相談があり、関係者ヒアリングなどの事実調査を行いました。その結果、重大な影響を及ぼす人権侵害の事例はなく、個別案件の状況に応じて適切に対処しました 。
「企業倫理ホットライン」のほか、職場における人権に関する問題については「ハラスメント相談窓口」「障がい者相談窓口」「LGBT相談窓口」などの専門相談窓口も設置しています。これらの相談窓口全体の2024年度の周知率は約98%ですが、そのうちハラスメント相談窓口については前年度比2%向上して57%となりました。さらなる向上を目指し、救済措置の強化を図っていきます。

今後の取り組み

グローバル社会でビジネスにおける人権尊重への取り組みの重要性が益々高まっています。
デンソーは、ステークホルダーからの信頼と共感を獲得し、多様な人材が活躍できる企業として、人権尊重は欠かせない要素であると認識しています。今後も人権方針をデンソーグループへ着実に浸透させていくとともに、社外ステークホルダーの意見も取り込みながら、人権デューデリジェンスや救済措置の強化など、人権に関する取り組みのレベルを高めていきます。