DRIVEN BASE

ステークホルダーとの対話 2011

●日 時 2012年1月10日

●場 所 ㈱デンソー本社(愛知県刈谷市)

●出席者
ジョージ・オルコット氏(東京大学先端科学技術研究センター 特任教授)
北原正敏氏(法政大学大学院政策創造研究科 教授)
藤井敏彦氏(独立行政法人 経済産業研究所 コンサルティングフェロー)
関正雄氏(株式会社 損保ジャパン 理事・CSR統括部長)

<ファシリテータ>
川北 秀人 様(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)

<デンソー参加者>
調達企画部・事業部企画部門・新事業推進室・グローバル事業企画部・安全環境推進部・人事部・総務部・経営企画部の部門長および担当者

有識者様からの主なご意見・ご提言

テーマ①「デンソーが事業成長を図る上で果たすべき社会的責任」

●2050年に世界人口90億人、都市人口が70%に達する中で、国際会議では「都市の低炭素化」を重要課題と位置づけ、企業に課題解決の提示を求めている。こうした場に積極的に参画し、技術力・総合力を発揮してほしい。日本企業の総合力を活かして世界をリードしていくべきだ。CSRの浸透では、ISO26000が世界各国で標準規格となる中で「先進国は環境、途上国は貧困」という最優先課題の違いはあっても、その両方の克服に向けて企業が積極的に関わることが重要だ。

●CSRと向き合う時、日本企業は自分が決めた課題だけに取り組み、いかに良い会社かをPRする「投手型」(能動的)、欧米企業は社会が求める幅広い課題を視野に入れ、直球でも変化球でもいかにうまく対応するかという「打者型」(受動的)。2020年の社会的課題を予測するのは難しいが、日本企業も積極的な受動型になっていくことが重要ではないか。社会が求めている課題を的確に抽出するには、NPOや国際機関など産業界の外にいる人々との密接な連携が重要で、自己完結型の自前主義から脱却する必要がある。それには組織、特に人事面でのグローバル化が不可欠であり、各国・地域の社会の特性をよく観て理解することが重要だ。

●象徴的な事例として、欧州の自動車部品メーカーのCSRレポートは、今後の社会がどうなるかという「メガ・トレンド」を分析し、幅広い課題に応える取り組みを提示している。報告主体も本社とグループ企業の区別がなく、登場する社員も自国より外国人が圧倒的に多い。CSRは会社が一方的に取り組みを決めるのではなく、世の中がどのように変化し、その変化にどう対応するのかを情報を開示すべきだ。

●長期的にデンソーが成長するには「脱クルマ」がキーワード。高齢化社会での「快適な住生活の創造」などがヒントになる。ただ、どのような事業を展開するにせよ「企業価値・イメージの向上」が不可欠であり、知名度を上げる手法、マーケティング戦略や組織の在り方などを消費財メーカーから学ぶとよい。失敗を恐れず、プロジェクト方式で新分野に果敢にチャレンジすべきだ。

●2020年のあるべき姿を探る時、新興国と日本の経済指標の比較(IMF予測)を見ても、現在の延長線上の発想では成長できない。ISO26000に関する調査では、日本で関心の高い課題は「汚染防止」「消費者保護」に対し、欧米では「人権」や「労働慣行」だ。この認識の差をグローバル企業として理解し、仕事やCSR施策にも反映すべきだろう。また、日本の「自前主義」の良い所を再認識するにも、他者と積極的に交わることが肝要だ。

テーマ②「人材のグローバル化・ダイバーシティ推進」

●優秀な海外企業は「世界選抜の人材」で戦っているが、日本企業は「日本選抜」という印象だ。また、前者は本社の統治能力が高く、後者では現地法人の人事を現地任せにしている例が多い。優秀な人材にグローバル市場で活躍してもらうには、よく統治された組織運営に基づく中央集権化が必要だ。その際、組織の世界観が共有化された上で、言語も共通化されていく必要がある。CSRを社員に知らしめることで、世界観も共有化できる。企業がグローバル化を進める際には「理念・価値観」を現地文化・言語の中で、正確に社員に浸透させることが極めて重要だ。

●同世代の中堅マネージャーの海外経験を比較すると、日本人は欧米人に比べて経験が少ない。日本企業がグローバルに成長するには、外国人の管理職を増やすことより、むしろ日本人マネージャーを抜擢して早くから海外で経験を積ませる方が先決ではないか。採用面でも、大学3年時に就職活動よりも留学を選択したような学生を積極的に採用すべきだろう。

●成長を続けるには、求める人材像を大きく転換すべきだ。海外市場で1人でビジネスできる人材が何人いるか?それが勝負の分かれ道となる。意欲のある人材を早い時期からリストアップして、豊富な経験を積ませることこそ近道だ。また、「働きがいのある会社」を示す指標があるが、キーワードは「信頼・誇り・連帯感」だ。デンソーは強い会社だが、良い会社であるか?を絶えず問い続けてほしい。

●グローバルな課題解決に向けた施策を提示できる人材であれば国籍は問わない。大切なのは、そうした人材をどのように育成するか。同時に日本企業の日本的経営の良さ・強みをいかにグローバル経営に反映させるかだ。損保業界も自動車部品業界と同様に、日系企業の成長をサポートする形で海外進出し、ゼネラリスト人材を重視してきた。今後は国際ビジネスで通用するスペシャリストの育成に注力すべきではないか。

●人材のグローバル化は、要は組織の壁を超える仕事を積極的に引き受ける人材がいるか否かだ。デンソーにおいては「従来型デンソー人」ではなく、外部との双方向性やチャレンジを楽しむ「次世代型デンソー人」の育成が鍵。新しいカルチャーを創るには、社員がどうしたいかを聞いて、施策に反映していくことが重要だ。デンソーが得意とする「現地現物」の文化を活かして、いま以上に社員との対話の機会を創出していくべきではないか。

事務局より

今回のダイアログは、CSR関連部署メンバーと有識者の方との対話形式から、多くの社員(事業部の部門長、逆出向者、女性管理職、若手社員など)に参加・聴講してもらい、みんなで考え、対話をするという方法で開催しました。
デンソーは、いままさに中長期計画を検討する段階です。
今回の社外有識者の方々との対話を通じて、デンソーの課題と長期的視点でのリスク、チャンスを多くの社員と共有することができたのは、大変意義のあることだったと感じています。

デンソーの進むべき方向性や活動を検証するには、社外の方と対話を重ねていくことが大切です。真のグローバル化企業として、事業成長すると共に社会から信頼・共感されるデンソーになるように、本日いただいた意見を参考に活動のレベルアップを図ってまいります。

経営企画部 CSR推進室