DRIVEN BASE

ステークホルダーとの対話 2010

●日 時 2010年12月27日

●場 所 ㈱デンソー東京支社(東京都千代田区)

●テーマ
今後の事業展開を見据えたリスクとチャンス
テーマ①今後の事業展開を見据えたリスクとチャンス
テーマ②多人権や多様性の尊重をどう理解し、施策に反映していくべきか
テーマ③その他CSR全般

●出席者
後藤敏彦 氏(環境監査研究会 代表幹事)
藤井敏彦 氏((独)経済産業研究所 コンサルティングフェロー)
秋山をね 氏((株)インテグレックス 代表取締役社長)

<ファシリテータ>
川北 秀人 様(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)

主な意見やコメントなど

テーマ① 地球温暖化や生物多様性に、どのように向き合うべきか

<●有識者、◆デンソー>



●これからは大変革の時代。2030年代には枯渇する資源が出てくる可能性もあり、現状の延長はないという前提で、将来の姿を起点にした上での対応(バックキャスティング)を考えるべきだ。鉱物資源の採取では、環境破壊や人権問題(強制労働等)を問われる懸念もあり、バリューチェーン全体をマネジメントする必要がある。

◆デンソーは、現状の課題を解決するのは得意だが、将来起ここり得る課題を見つけ、解決していくという点は弱いと感じている。今後、社内でCSRに関する中・長期計画を考える際にバックキャスティングの考え方を取り入れて実施していきたい。

●今後「水戦争」がおこると言われるほど水の問題は深刻だが、デンソーではあまり触れられていない。また、CO2削減では、2020年目標を掲げる企業は多いが、「2050 年目標」まで拡大すべきだ。バックキャスティングで環境保全活動を考える必要がある。

◆ご指摘のように、世界的に深刻な問題であることから、デンソーが今後どのように関っていくべきかを検討したい。

●新事業では、従来のビジネス手法と異なる視点での環境保全を図る必要がある。例えば、生態系サービスの点で問題ないかといった配慮だ。欧州では、バイオ燃料の原料採取で児童労働などの人権問題が潜んでいる可能性からバイオ燃料を輸入制限する動きもある。デンソーは、藻からの燃料生成の研究開発を行っているが、そこでは必ず水への環境配慮が求められる。また、遺伝子組み換えの問題や敷地の外に藻が漏れる等のリスクもある。

◆藻からバイオ燃料を抽出する際に考えられるリスクについては、国家プロジェクトの中で産官学が連携しながら調査・研究を実施している。
その中では周辺環境影響評価も専門家の先生が実施している。今後、水などの問題についても LCA(Life Cycle Analysisの専門家に評価を依頼している。今後も引き続き、国家プロジェクト内で専門家の先生方と共同研究しながら検討していく予定である。

テーマ② 人権や多様性の尊重をどう理解し、施策に反映していくべきか

<●有識者、◆デンソー>



●グローバル企業として幅広い分野で人権に対する認識を高めていく必要がある。日本では「人権=差別」という狭く偏った認識のもと、人権問題に対応していると思い込んでいる企業が多い。しかし、ISO26000における人権の解釈は幅広く、OECDの「多国籍企業ガイドライン」でも人権保護に関する規定を大幅に改定する予定だ。こうした動きを注視して、地域別の人権問題を把握すると同時に、世界共通の認識を理解すべきだ。

◆ISO26000が掲げる人権に関わる課題を自社の活動にどのように落とし込むべきか検討中である。積極的に社外の人々とも対話を重ね、グローバルな視点から課題の背景などもしっかり勉強していく。世界各国・地域の人権問題については、デンソー本社がその実情を十分に把握し、各地域と課題を共有化・解決することが重要と考えている。また、採用・人材育成・制度などで基本的人権をないがしろにしないマネジメントの実践が重要と認識している。

●社員の一体感こそ、デンソースピリットを実践する原動力と思うが、人事方針の「One DENSO One HR(人的資源)」とどのように関連付けていくのか。欧米では、企業のビジョンを社員共通の価値観として刷り込ませて一体感を培っているが、「デンソースピリット+CSR」をどう位置付けていくかが重要だ。

◆デンソーでは、デンソースピリットの浸透をグローバルに図っている。ご指摘いただいた点は理解できるので、デンソースピリットとCSRの関係性などについて、今後検討していきたい。

●デンソースピリットや企業理念などを社内に浸透させるには、全員で考えることが大切だ。理念を自分の仕事に落とし込んだ時にどう理解するかを職場で討議すべきだ。ローカルや現地で、基本理念やスピリットを仕事に置き換えて考えるような地道な作業が必要だ。一方で、理念を共有・実践しているかを人事評価に反映するのも効果がある。そうすることで会社の真剣度が伝わるのではないか。

◆デンソーでは、以前から国内外のグループ会社に対して、デンソースピリットに関して導入の背景や先人の事例を紹介し、自らの価値観として捉えてもらうべく普及のための活動を行ってきている。更に2011年2月には、再加速させるべくデンソースピリットの具体的な「事例集」を配布し、職場単位で自らの仕事に落とし込んで話し合う場を設けることを検討している。こうした地道な活動を継続していく。

テーマ③その他・CSR全般

<●有識者、◆デンソー>



●CSRの取り組みはバリューチェーン全体のマネジメントが重要だ。電子業界ではCSR調達が進み、3年前はメーカーが仕入先に調査票のみを送付していたが、昨年は工場監査を行い、今年は社員寮まで監査した例もある。今後は自動車業界にもこうした動きが間違いなく広がるだろうから、CSR調達の取り組み強化が不可欠だ。

◆自動車業界でもCSR調達が加速していると感じている。デンソーは国内展開は推進・強化しているが、海外での取り組みはスタートして間もないため、今後、注力していきたい。

●日本は現状を改良するのはうまいが、市場を開拓し、他社・行政・NPOを巻き込んでルール化するのは苦手だ。今後は、ルールづくりにも積極的に関わることが重要だ。デンソーも、要素技術に徹するのではなく、新しい製品を企画し、安心・安全までセットにして、製品やサービスを売っていくようなビジネスモデルを開拓してほしい。その際には新しい規律が必要となるが、発想段階から行政やNPOなど社外の人々と積極的にコミュニケーションを図り、一緒になって考えていく必要がある。

◆デンソーは要素技術は得意だが、商品化したりルールづくりに関わるのは苦手。ただ、今後は、社外の人々と積極的にコミュニケーションを図り、デンソーに足りない部分を指摘いただきながら事業化につなげていきたい。こうしたダイアログに事業部の社員を参加させるようなことも検討したい。

●ISOはガイダンスであって認証ではないものの、日本の産業界がアサインしている以上、入り口もなければ出口もない。義務ではないので違反を問われることはないが、日本から代表者を送って作成に関与した以上、間接的に合意している。つまり、条項への対応が出来ていようといまいと説明責任が課される。ISOをどう理解すべきかが重要だ。

◆ISO26000の対応については、今後デンソーでは何ができていて、何ができていないかを整理し、ロードマップのようなものを作成しようと考えている。今回いただいたご意見を参考に、活動のレベルアップにつなげていく。

●選択と集中による効率的なマネジメントを実践するには、バックキャスティングの発想でマネジメントを展開していく必要がある。そこでは誰とパートナーを組むのかが重要だが、これまでは内部の価値観と合う人と仕事をしていたが、今は外部の人と価値観を共有すべき段階にある。次回のダイアログは、ぜひ現場に近いところで開催し、多くの社員に参加してもらってはどうだろう。

事務局より

デンソーがCSR経営に取り組み始めた頃は、「真のグローバル企業への進化」がキーワードでした。それから約5年を経て、売上や人員構成などではグローバル化しましたが、世界中で存在価値を認められる企業として成長できたかと問われれば、まだまだ道半ばというのが実情です。2011年度は新たな長期構想を考えるタイミングでもあることから、本日いただいた貴重なご指摘・ご意見をもとに関係部署と検討し、さらにCSR活動のレベルアップにつなげていく決意です。

経営企画部 CSR推進室